[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
きゅんもえきゅん死にどんとこい!
『とある定番』
インターホンが鳴り、千秋はモニタを覗き込んだ。
「……蓬生?」
この部屋へと繋がる鍵を持っている幼馴染、蓬生がそこに映っており、千秋は首を傾げる。
いつもならば勝手に部屋へと入ってくるのに、どうして今日に限ってインターホンなどを押したのだろうかと千秋は考え、そして考えることを放棄した。
おそらく下らない事でも考えているのだろう。
モニタに映った蓬生はカメラへと向かって、ひらひらと手のひらを振っていた。
「勝手に入ってこい」
付き合う義務はないと、モニタに向かって千秋は言い捨てた。
「ええ~、千秋が開けてや」
「なんでだよ。お前、鍵持ってるじゃねぇか」
「千秋、あけて?」
甘い声でそう言う蓬生の両手は、特に何も持っていない。
やはり何か、自分にとってはどうでもいい何かが、蓬生にあると、千秋は溜息を吐いた。
そして千秋はもう一度考える。
ここでオートロックを解除しない場合、蓬生は部屋へ入ってこない確率はほぼ十割で、面倒な相手をしなくてもいいことになる。
しかしその後の、蓬生の態度を考えるとなると、そちらの方がよっぽど面倒だと千秋は答えを出し、結局オートロックを解除した。
「……入ればいいだろ」
「ありがとう、千秋」
不機嫌に言った千秋とは反対に、蓬生の声は高らかだ。
その声に刹那に瞼を閉じ、千秋は片手で両目を覆った。
とたん、またインターホンが鳴る。
玄関のドアまで開けろという蓬生の意思をありありと感じて、千秋は無言で何度目かの溜息を吐いた。
「…………」
ロックを外し、千秋は無言で、無表情で、ドアを開ける。
千秋がチラリと見やると、蓬生はわざとらしい、はにかんだ笑顔を浮かべていた。
一瞬千秋の背筋に、冷たいものが走る。
わざとでも蓬生のあまりにも見慣れない笑顔に、反対に千秋は怖くなってしまった。
「……千秋、」
「な、なんだ、」
「……来ちゃった♥」
少女漫画のように小首をかしげ、蓬生は千秋へと微笑む。
千秋はただただ驚いて、目を見開くことしか出来なかった。
「千秋、来ちゃった♥」
「……なにがしたいんだ、蓬生」
呆気にとられた頭を千秋は軽く振って、そのままこめかみを押さえる。
やはりそんな千秋を蓬生は気にもせず、反対側へと小首をかしげて笑顔で唇を開いた。
「あら? 俺、可愛くなかった?」
「気持ち悪いわ! アホ」
こんなことがやりたかったのかと、千秋は盛大な溜息を吐く。
たったこの一言の為に、オートロックを解除してドアを開けてやったのかと思うと、自分自身が情けなくなると千秋は蓬生を睨んだ。
「せやかて、さっきたまたま見てたアニメで、なんか可愛かったんよ。こう、小首傾げて『きちゃった』って」
「お前は子供か!」
「ええ~、千秋なら喜んでくれると思たのに」
「喜んでるのはお前だけだ、アホ蓬生」
やり場のない感情をそのままに千秋は蓬生の頭を一度叩くと、腕を引き寄せ部屋へと入れる。
こんなやり取りを、誰が見ているとも思わないが、その行動が千秋にはもう耐えられなかった。
「痛いわ、千秋。なあなあ、俺、可愛かったやろ?」
もう一度蓬生の頭を叩き、千秋は馬鹿馬鹿しくなり苦笑しながら背を向け部屋へと歩く。
その背中を蓬生は抱きしめ、千秋はその頭を今度は撫でた。
「はいはい。可愛ええ、可愛ええな、蓬生は」
「千秋はカッコええよ」
「はいはい。ありがとうな」
背中に乗る蓬生を引き摺りながら、千秋はリビングへと移動する。
そしてまず蓬生をソファへと投げ出すと、千秋は上から見下ろして言った。
「蓬生。こんなことをしたからには、今日は俺に付き合う義務があるぞ」
「そんなんなくても、いっつも付き合ってあげてるやん」
目の前にある千秋の腰に、蓬生は両腕で絡みつき、その腹へと頬を乗せる。
「だから、今日は千秋が俺に付きおうてや?」
その最初の行動が先程のことだと、蓬生は言う。
千秋は目下にある頭へと手のひらを置き、軽く溜息を吐いて髪を掬うように撫でた。
甘える蓬生が、実は千秋は嫌いではない。
「蓬生、」
「なに?」
甘い蓬生の声が、千秋の腹部へと響く。
「もう一度、やってみろよ。さっきの」
その言葉に、蓬生は埋めた顔を上げて、千秋へとはにかんで言った。
「……来ちゃった、千秋♥」
蓬生の頬を引き上げ、舌をのぞかせた唇を、千秋は奪う。
「で、その後どうなるんだ?」
「どうやったかな。部屋に入って……」
今度は蓬生が千秋の唇を奪い、重ねる。
続きはふたりで考えればいいと、蓬生は千秋を引き寄せ、ソファへと横にした。